【前編】文三からシリコンバレーでエンジニア!?〜人生を変えた瀧本ゼミの意思決定〜





今回は瀧本ゼミのOBである田中さんのインタビューをお送りします。田中さんは、東大文科三類に入学後、理転し現在シリコンバレーでエンジニアとして活躍されています。投資分野と一見無関係な理系分野に取り組む田中さんにとって、瀧本ゼミで学んだことはどのように活きているのでしょうか。特に進振りや就職で進路に悩んでいる方々は必見です!


文三から計算機科学の世界へ

 



—-本日はよろしくお願いいたします。田中さんはかなり変わった経歴をお持ちだと思うのですが、まずその部分について詳しく教えていただけますか


「はい。まず、学部では、文三に文学部志望として入学しました。

 多言語学習に興味があったため、最も独学が困難と言われているロシア語を第二外国語として選択しました。しかし、いくつか言語の授業を取るうちに、たとえば世界史の固有名詞を各言語で覚えなければならないなど地道な管理が手間であり、なおかつ自分が文学あるいは言語の研究で卓越した成果を出せるほどの適性も情熱もないことを徐々に自覚して、目指したい方向性に合っていないと判断し、専攻変更を決意しました。

大学1・2年時代に、社会学、認知脳科学、惑星地球科学などの概論を取りましたが、どれも自分の好みにヒットせず、いくつかの勘をもとに計算機科学(Computer Science)を専攻することに決めました。計算機科学を一言で言えば、効率的な計算を実現するしくみを研究する学問分野です。グーグルは今や30兆ウェブページ以上もの文書から検索しているようですが、それでも1秒以下で検索結果が返ってくるのは、計算機科学の分野の成果がふんだんに使われているからだと言えます。人間だったら、1000ページの電話帳から探すだけでも10秒くらいはかかってしまいますよね」


—-なるほど。駒場で色々と授業を受けていくうちに、興味の対象が変わっていったのですね


「そうですね。その後は東大のゆるふわな情報系の部署に進学して、最も授業が面白かった先生のもとで卒業研究をしました。面白い講義をしてくれた3人の先生方が全員アメリカの大学でPhD(博士号)を取っていることに気づき、彼らに相談したところ、アメリカの大学院進学を強く勧められました。彼らの勧めと単純な好奇心もあり、アメリカ合衆国ニューヨーク州のマンハッタンに位置するコロンビア大学のEngineering Schoolに進学して、相当真面目に勉強してComputer Scienceの修士号を取得しました。

現在は、Computer Science専攻の学生にとって夢の場所であるシリコンバレーのテクノロジー系企業に新卒として入社し、エンジニアとしてビッグデータを扱うプログラムを書く仕事をしています。ちょうど働き始めて1年と少しが経過したところです。仕事は充実していて、やりがいがあります。

公式の職業名にはエンジニアと入っているのですが、エンジニアというと光や車を扱う人たちも入ってしまうため、以下では『プログラマ』と表現させてください。

 また、僕のコメントは、男女問わず関係のある話だと強調しておきます。東京大学における情報系の学部である理学部情報科学科は男子比率が極めて高いですが、コロンビア大学のComputer Science専攻の学部生における女子比率は45%です。(コロンビア大学の関連記事)僕がクラスプロジェクトで関わったチームメイトの男女比率もそのような感じでした。現在の職場でも、子持ちで働いている女性プログラマがチームメイトに2人居ます(それぞれ2人の子供がいます)し、僕のマネージャーも女性です」




社会を生きる上での『自由』とは

 

なぜプログラマになろうと思ったのですか?


「3つ理由があります。

 1つ目の理由は、自分が大事にしている「自由」(何らかの恣意的な規則に束縛されていないこと)という価値観に最も沿っている職業の一つだったことです。弁護士や医者、会計士は社会的に意義があり、高給かつ論理的な面白みもある職業ですが、各国の社会制度に依存するため、日本で医師免許を持っていても海外ではまた長い準備期間を踏まなければならないなどの制限があります。ニューヨークでは理三出身で日本で医師免許を持っているが、現在はアメリカでまだ研修中という方ともお会いしました。少なくとも人体は、地域的な属性によって差はあれど、普遍的な性質を持つ知識のはずなのに、国すらまたげないという点が自分の職業として選ぶ場合には好きではありませんでした。

 一方でプログラマーは、一旦基礎を身に着けたあとは、どの国に行っても同様のスキルが通用しますし、ビザの問題さえなければそもそも国を越えてリモートで働くことも可能です。日本に住みながら、海外に本社を置く会社でフルリモートで働いている方も居ます(給与水準が高いです)。ハワイで暮らしているプログラマも居れば、都会は物価が高いからと田舎に大きな家を買って、そこでのんびり暮らしながら、しかし仕事としては世界の生産性を変えるようなソフトウェアを書いているプログラマも居ます。たとえばPython言語でデータ分析をする人なら一度は使ったことがあるであろうPandasというツールがあります。開発した人はWes McKinneyという方なのですが、彼はニューヨークでの生活にうんざりして彼独自の基準でテネシー州に引っ越しました。彼はそのことをブログにも書いています。(彼のブログはこちら)

 グローバル化し、residence(住居)とnationality(国籍)とidentity(身元)とrace(人種)が日本人といえど全く同一でなくなったこの時代に、一国の制度に縛られるのは将来に恣意的な天井を作るという懸念から、国に依存しない職業を選ぼうと考えました。その中で今のところはプログラマが最も合っているという感覚がありますが、そういう意味では、瀧本先生のような投資家という職業も、国にあまり依存しない職業ですね。投資対象も戦略も、何年働いて何年休むかも、自由に決められる職業だという印象を持っています」


今しかできないことをやる

 



—-なるほど。確かにプログラマは自由度がかなり高いですね。東大生の多くは進路を選ぶ際に、『儲かりそうだから』とか『かっこいいから』といった理由で意思決定をしているように感じるのですが、本来ならば田中さんのように自分の価値観についてメタ認知を行う必要がありますよね


「メタ認知は恐らく進路を選ぶ上で最強のツールの一つだと思います。自分の価値観を自覚したあとは判断基準が明確になりました。進路に悩んでいる方には役に立つかもしれません。

 2つ目の理由は一般的にもよく聞く行動基準なのですが、『今しかできないことをやろう』と思ったからです。世の中はタイミングによってできる、できないが決まることが多いから、今しかできないということは、それだけで価値があると思ったのです。

 例えば修学旅行だと、普段できないから枕投げをしようみたいな話が持ち上がるかと思うのですが、それと同じで、数千年にわたる時代の流れにおいて、西暦2010年代のこの時期にしかできない「贅沢」はなんだろうか、と自問しました。そしてその答えは、とてつもなく早い様々な計算だ、というものでした。

 日本におけるツイッターの月間ユーザーは4000万ぐらいだそうですが、よく考えてみれば4000万という数を数えるだけでも大変ですよね。電子計算機はまだ出来て100年も経っていません。1880年、計算機ができる前のアメリカにおける国勢調査は、10年ごとに行うものなのに、集計に7年かかり、1890年の国勢調査の集計は人口増加の観点から13年かかると見積もられていたそうです。(ウィキペディアの該当記事)ツイッターの月間ユーザーは、恐らく24時間もかからずに数えられるでしょう。4000万ユーザーという数字をもとにすれば、いろんな広告の金額を決めたりなども捗りますよね。ちなみにそれは自明な作業でも単純な作業でもなくて、僕は広告系IT企業のデータベースエンジニアから、一時期は毎日のユーザー数を数えるのに24時間以上かかる非効率なシステムを使っていた、と聞いたことがあります。

 歴史上の不運な計算機科学者として、チャールズ・バベッジという方が居ます。彼は1800年代にイギリスで活躍した数学者で、現代のコンピュータの先駆となるような汎用的な計算機械を作った方なのですが、あまりにも時代の流れより先に行き過ぎたために、たとえばGoogle創業者のラリー・ペイジのようなホクホクの人生を歩むことができませんでした。僕はそういう、正しかったけれど早すぎたためにダメだったという人生は歩みたくありません。

 自分はバイオインフォマティクスはまだ早すぎると思っているので、それで生物系の道に進むことは止めました。でも自分がもし100年後に生まれていたら、たぶん計算機科学ではなくて生物情報学を専攻していたと思います。「今しかできないことをやろう」の言い換えを資本主義的に行うと、成長分野を学んで成長産業に飛び込もうということになります。そういう点ではロシア語を選択したのは大失敗でした。仕事をしていて聞こえてくるのは、アジア系の同僚たちが話す中国語のみです。ある有名な長期投資家は、娘2人に子供のときから中国語を習う環境を整えたといいます。Youtubeに衝撃的な動画がありますよ」



※バイオインフォマティクス…生命科学と情報科学の融合分野。生命が持つ情報を分析する学問のこと。


現代社会を生きるための『武器』

 


—-時流を的確に読むというのは投資でもかなり重要視される点ですね。最後の一つはどんな理由なのでしょうか


「3つ目は、他と比べると抽象的な理由で、理解を深く理解するための「網」を作りたい、と思ったからです。

 複雑な現代社会を深く理解する上では、政治や、経済とくに金融や、化学や、医療(生活習慣病の方も多い世の中です)など、多様なトピックを横断的に理解する必要があると思っています。全てについて横断的に深く知ることは個人では無理で、それは人脈が担当します。

 一方で現状を見てみると、たかだか多言語の単語のスペルや発音を覚えるだけでも自分の記憶力では厳しすぎる。正攻法ではとても現代社会の複雑性にかなわない。漁師が釣り竿では効率的に釣れないから網を作るように、コンピュータひいては数理的な手続きに関する深い習得を通して、どのような分野においても汎用的に有効な「網」を手に入れたい、という方向性を定めました。

 たとえば、単語の学習に戻れば、間隔反復法(Spaced Repetition)という、忘却するまでの日数の曲線を機械的に管理して記憶が長続きするようにする方法があります。記憶という、なかなか自分では制御できないと思っていたものが、数理的に強化できるのは面白いです。忘却曲線を自分自身の学習データから推定して、iPhoneアプリとして管理して「おーい、この単語、忘れかけてるよ。復習する?」とpushするタイミングを行動経済学的な観点から最適化するのであれば、それはもう計算の問題です。もちろん実際には、留学1回の方がよっぽど効果あるというのは否定しません。しかし誰もが取れる解決策ではありません。

 友達と話していて何かの名前を思い出せないとき、ググりますよね。あれもすごい話だと思いませんか?もう我々は、2300年前の私達の先祖のように、アレクサンドリア図書館の書棚に眠るパピルスの巻物にまでわざわざ物理的に足を運ばなくても、きゃりーぱみゅぱみゅの正式名がきゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅであることを10秒以下で見つけられるわけです。これは理解を促進するために作られた数理的な「網」であり、歴史的意義のあることです。そして僕はそれを自分で作りたい。

 単なる既存知識の参照に限らず、たとえば統計的にデータを解析すると、政治の有権者データだろうと、金融データだろうと、医療データだろうと、あまり世間では取り沙汰されていないパターンが見つかります。統計的なデータ解析手法は一度大学時代に地道に学べば、その後一生使えます」


—-興味対象や時流、また手法の汎用性を踏まえるとプログラマが最適だったということですね。


「文三からシリコンバレーでエンジニア!?〜人生を変えた瀧本ゼミの意思決定②〜」へ続く

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